親不孝通りはチョコの味
誰が呼んだかしらないが、横浜の風俗密集エリアは通称『親不孝通り』と呼ばれている。風俗デビューして間もない20代半ばの僕は、いつもよりさみしげな寒い夜の親不孝通りを歩いていた。それもそのはず、その日は12月24日のクリスマスイブ。いつもであれば威勢のいい客引きがゾロゾロしているが、この日ばかりは数える程度だ。僕は風俗へ行きたかった訳ではない。ただぬくもりが欲しいだけだった。 ダルそうな客引きが僕話しかけてくる。「お兄さん、普段はイチゴーだけど今日はイチサンでいいよ」。特にあてもなかった僕は、そのホテヘルに決めた。いつもなら写真を入念にチェックするところだが、相手をしてくれる女のコがいるだけで満足だ。あえて写真は見ずにお金を払った。受付で待つこと数分。茶髪のショートカットが似合う小柄な女のコがやって来た。「今日は寒いね。早く暖かい場所へ行こうよ」。笑顔の彼女に腕を引っ張られ、近くのレンタルルームへ。「じゃあ、服脱ごうか」。そう言われて、僕は一瞬戸惑った。「エッチなことはしなくていいよ。お話しがしたいな」自分の口から思わぬ言葉がポロリ。僕の気持ちを悟ってくれたのか彼女は隣にチョコンと座り、もたれかかった。お互いの地元のこと、最近やった鍋パーティのこと、将来の夢、くだらない話しに付き合ってくれていることが本当に嬉しかった。 そして、区切りの良い所で終了を告げるタイマーが鳴った。「ちょうどいい時間だね。じゃあ、私からプレゼント」。彼女はバッグから板チョコを出した。彼女はそれを割ると、僕の口へ。すると彼女は背伸びをしてキスをしてくれた。口いっぱいにチョコの味が広がる。別れ際、駅へ向かう僕に「来年はステキな年になるといいね」。いつものことだが気の利いたセリフが思いつかなかった僕は、笑顔で頷くことが精一杯だった。 誰が呼んだか親不孝通り。今でも冬の親不孝通りを歩くと、あの日のチョコの味を思い出すのだ。